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結果がよければ医師も患者も治療による効果と判断してしまう可能性が高いのですが、本当に効果があったかどうかは実はわかりません。 このように実際の臨床場面では、治療の効果を厳密には評価できません。
そこで、新しい技術については、「無作為化比較対照試験」という方法を用いて新旧の技術を比較します。 具体的には、患者を無作為(ランダム)にあるA群、B群に分け、A群にはAという治療方法、B群にはBという治療方法を実施し、両群の治療成績を比べてみるわけです。
患者や病気の程度の相違はA群、B群にランダムに振り分けられることによって調整されるので、治療方法の優劣を統計的に検証できます。 しかし、「無作為化比較対照試験」を実施するには、非常に大きなコストがかかり、倫理的にできない場合もあるので、新薬などに限られています。
そのうえ同試験は、効果の違いが明確に表われるように、対象を比較的若く、合併症のない患者に限っていますので、実際に使われることが多い、合併症を持つ高齢者に対しても効果があるかどうかは、よくわかりません。 したがって、臨床医の経験と勘が依然として大きな要素を占めており、縮小しようとすると、より多くの検査等のデータが必要となり、費用がかかります。
なお、医療にはこのような医学としての自然科学的側面のほかに、患者との共感やサポートといった、いわゆる芸(art)としての側面があります。 患者にとって「優しい医師である」「励ましの言葉がある」という数値化できない精神的な手助けも、医療においては大きな要素を占めており、それ自体に価値があるだけでなく、治療効果も上がることがあります。
このように医師は大きな裁量権を持っていますが、ある病気に対して、医師が適切と判断する医療サービスの範囲を、大きく3つに分類することができます。 常に適切と判断される「白」の部分、行っても意味がないか、かえって悪くなる常に不適切とされる「黒」の部分、そして「状況によって」適切となる「灰色」の部分です。
最後の灰色の部分が最も大きく、この灰色部分はまずは患者の特性によって、「白」になったり、「黒」になったりするので、第三者(たとえ同僚の医師であっても)が適切かどうかを判断することは難しいといえます。 たとえば患者に頭痛がある場合、それが脳腫傷でないことを確認するためにCTスキャンを撮ったとします。
頭痛の原因が脳腫傷である確率は非常に低い(ただし、ないとは断言できない)ので、こうした状況下でCTスキャンを撮ることは「灰色」に分類されます。 ところが、頭痛に突然の嘔吐という症状が加わると(嘔吐は脳内の圧力が高まったために起きた可能性がある)、脳腫傷である確率が高まるので「白」となります。
もう1つの例は、風邪の場合の抗生物質の投与です。 抗生物質は細菌には効きますが、風邪はウイルスが原因ですので、直接の効果はありません。
しかし、風邪をひけば細菌による肺炎にかかりやすくなるので、肺炎を予防するために抗生物質が投与されていることが多いのです。 めったに風邪から肺炎にはならないので、抗生物質の投与は「灰色」に分類されます。

しかし、患者が高齢であったり、肺や気管に異常があれば、風邪から肺炎になる危険性が高まるので、その場合は「白」になりえます。 このように、「白」の部分は患者の特性によって大きく変わり、しかも「灰色」部分であってもまったく意味がないとは断言できません。
そのためたとえば水虫の患者の脳波をとる、というような極端な例以外は「黒」とはいえません。 したがって、医療において明らかに「ムダ」なことを行った、と判断するのは非常に難しいことになります。
そのうえ新技術が伝播するにしたがって、「適切」とする範囲は広まり、「ムダ」と判断されなくなる傾向がある点にも留意しなければなりません。 たとえば、先のCTスキャンの場合も、日本に数台しかない30年前は、対象とされる患者の範囲は非常に限定されていましたが、現在は頭痛があれば念のために撮影することが当たり前になっており、逆に撮影せずに脳腫傷を見逃した場合には医療訴訟の対象にすらなりえます。
そもそも治療が適切であったかどうかは、後述しますように、治療した結果だけでは判断できず、たとえ患者が亡くなった場合でも「ムダ」であったといえません。 たとえば、がんの新薬によって、今までは10人に1人しか助からなかったのが、0人に2人助かるようになった場合、あるいは余命が数カ月伸びた場合、新薬の使用は決して「ムダ」ではなく、むしろ「有効」な新薬として評価されます。
医療サービスとして適切な範囲は基本的には患者の特性によって決まります。 しかし、こうした「灰色」部分の存在は、「根拠に基づく医療」と訳されており、これまでの医師の経験と勘による医療から、エビデンス(証拠)によって裏打ちされている医療への転換が世界的に推奨されています。

エビデンスとは、患者の治療成績のことであり、動物実験などにおける有効性ではありません。 治療成績を出すことは容易なように見えますが、実際には患者の性、年齢、病気の重症度、合併症の有無などによって成績は大きく異なります。
したがって、信頼度の最も高いエビデンスは、こうした相違を相殺した無作為化比較対照試験の結果です。 つまり、一定の条件を満足する患者に対して、新しい治療方法を実施する群と、そうでない群に無作為に振り分け、統計的に有効性を検証する方法です。
しかし、この場合も治療効果の指標として何を選ぶか(延命、機能状態、検査値、QOL、患者の満足度など)によって結果は異なり、総合評価する場合は各指標の重みづけの仕方によっても異なります。 また試験の対象となった典型的な患者について効果が検証されても、合併症などのある高齢な患者等では必ずしも効果があるといえません。
さらに医師・医療機関の技能レベルなども異なるので、EBMの結果をそのまま適用できるとは限りません。 いずれにせよ、エビデンスに基づいて治療指針を作成する際、支払う側は常に費用を意識するのに対して、医師・医療機関は最高のレベルを追求します。
そして、EBMはコストの問題に対して直接回答できず、QOLの経済評価を行わなければいけません。 したがって、EBMによって「灰色」部分は確かに縮小しますが、医療の構造的な問題がすべて解決されるわけではありません。
一般に理解されておらず、医師の言い逃れとして受け取られている節があります。 そして、事実、「適切」と判断する範囲は、患者の特性だけではなく、医師の特性によっても大きく異なっています。
カナダのオンタリオ州の各地域における、いくつかの手術について、住民の人口10万当たりの実施率の幅を示しています。 「結腸切除術」については幅がありませんが、子宮摘出などが実施される割合が大きく異なることが明らかです。
手術を必要とした患者が地域によってここまで大きく異なるとは考えにくいので、こうした相違の大部分は当該地域における医師の判断基準の違いによると思われます。 つまり、患者の病状だけで手術されるかどうかが決まると考えられていたのですが、医師側の要因によっても大きく異なることが他の研究からも確認されました。

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